海と川との関わり、そして親子愛を描く「泉小太郎伝説」が完成!
2018年よりはじまった「海ノ民話のまちプロジェクト」。これは日本財団が推進する海と日本プロジェクトの一環として、日本中に残された民話を発掘し、アニメーションをベースとした親しみやすい表現で「海との関わり」や「地域の誇り」を子供たちへ伝え語り継ぐことを目的としたものです。プロジェクト発足5年目となる2022年も、日本各地から選ばれた海ノ民話15作品を映像化。そのうちのひとつとして、長野県大町市に伝わる民話「泉小太郎伝説」が完成しました。
このお話は、長野県にある松本平が、山々の沢から落ちる水を湛えた豊かな湖だった頃の物語。湖には犀龍という名の龍が住んでいて、そこから遠く東の池に住む白竜王と夫婦になった犀龍は、男の子を出産。その子は湖のほとりに住む老夫婦に人間の子として大切に育てられ、泉小太郎と名付けられました。小太郎が立派に成長するにつて、母の犀龍は龍である自分の姿を恥ずかしく思うようになり、いつしか湖の底に隠れてしまいました。
それから数年後、この地は山間のため、作物を採るために畑を耕すのにも人々は大変な苦労をしていました。「この広い湖がすべて畑や田んぼとして耕せたら、もっと豊かな郷土になるだろう」と考えた小太郎は、老夫婦にこの湖の水をなくす手立てはないかと相談しました。それを聞いた老夫婦は、顔を見合わせ考えた末、小太郎に「今まで黙っていてすまなかった。実はお前は、昔からこの湖に暮らす犀龍の子なのだよ。一つ方法があるとすれば、母である犀龍に話してみることだろう。子どもであるお前の言葉であれば、母の犀龍に届くじゃろう」と言って聞かせました。
その話を聞き、本当の母にどうしても会ってみたいと思った小太郎は、翌日、母の住む湖の底を訪ねることに。しかし、湖底に母の姿はなかったため、小太郎は山を越え、いくつもの沢や谷を越え、ようやく尾入沢というところで母である犀龍とめぐり逢うことができたのです。
小太郎は、母に自分が今までどのような暮らしをしてきたのか、そしてなぜ母を探していたのかを話しました。そんな息子の話を聞いていた犀龍は静かに語り出します。「私はあなたを信じて、姿を変えて待っていたのです。さあ、私の背中に乗りなさい。あの湖の水を海へ流し、この地を人々が住むことができる土地にしましょう」
そうして小太郎は、母犀龍の背中にしっかりと抱きつくと、じじ、ばばの住む湖へ向かって飛んでいき、山々を次々に突き破り、さらに下流の岩山を突き破ると、千曲川の川筋から越後の海まで乗り込んでいきました。こうして松本平の広大な土地が生まれ、川沿いには肥沃な田んぼが生まれました。
その後、小太郎と犀龍は安曇野の里で暮らし、子孫は大いに栄えたということです。母犀龍と小太郎が力を合わせ、川を作り、海に繋げたことで海が豊かになり、多くの魚が集まる漁場となりました。
母犀龍は小太郎の父・白龍王と仏崎の岩屋に入って暮らし、息子が暮らす里を見守りました。後に、小太郎も両親と同じ岩穴に入り、今でも里を見守っています。
この作品はキャラクターデザイン、絵コンテ、演出、作画、というアニメ制作における重要なポジションのほとんどを演出家・ススキダトシオさんがお一人で手掛けられました。また美術・背景を担当した子ども達に大人気のキャラクターたちが活躍する映画「すみっコぐらし」シリーズで美術監督も務めている日野香諸里さんは、水彩画のような味わい深いタッチで小太郎と母の物語を描きました。その中でも、目を惹くのが母犀龍の迫力あるデザイン。ラインプロデューサーの沼田友之介さんは、犀龍のビジュアルについて、このように語ってくれました。
「ススキダトシオさんには、絵コンテ会議の際に、長野県大町市の仏崎観音寺に飾られていた絵などを参考資料としてお見せしました。ススキダトシオさんはレジェンドクラスの方なので、基本はお任せでお願いしましたね」
原作の民話では、龍の姿でいる母犀龍ですが、本作では優しげな女性の姿としても描かれています。
「大町市の皆さんからは『龍のままでいいのでは』というご意見もいただいたのですが、日野さんと相談して『ここは人間の姿にしたほうがいい』となりました。完成したアニメをご覧になった地元の皆さんから『とても良かったです』とのお言葉をいただけたのが嬉しかったですね」
「龍の子太郎」としても有名な原作民話。地元の皆さんからも、アニメ化への情熱がひしひしと伝わってきたそう。
「大町市の皆さんも、かなり力を入れてくださって、民話に関わりのある場所にも連れて行っていただきましたし、写真もお送りいただいて『ぜひ使って欲しい』というご要望もいただいたりしましたね」
「泉小太郎伝説」が残る長野県大町市に海はありませんが、雄大な北アルプスの麓や大町で生まれたミネラルや栄養が海へと運ばれ、魚を育て、漁場や環境に大きな恵みを与えている、という海と川の関係が学べる民話となっています。長野県の地理や歴史の勉強にもなる本作を通して、海への学びを深めて行きたいですね。