日本財団海と日本海のまちプロジェクト

今こそ伝えたい海の民話アニメーション

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「海の学び」がしっかり込められた民話「影ワニ」がアニメに!

作品公開
2023年3月21日

2018年よりはじまった「海ノ民話のまちプロジェクト」。これは日本財団が推進する海と日本プロジェクトの一環として、日本中に残された民話を発掘し、アニメーションをベースとした親しみやすい表現で「海との関わり」や「地域の誇り」を子供たちへ伝え語り継ぐことを目的としたものです。プロジェクト発足5年目となる2022年も、日本各地から選ばれた海ノ民話15作品を映像化。そのうちのひとつとして、島根県大田市に伝わる民話「影ワニ」が完成しました。

このお話を語るのは、何言亭萬年という名の落語家。「昔の人は、災害はヒトノ行いに対して、天が罰を与えていると考えておったんですな。ですから、自らの行動を律する掟を作り、それを守るよう代々伝えてきたんですな」と話ながら、島根県大田市に昔から伝えられる、海に住む怪魚をめぐる掟を紹介します。
石見の国温泉津の日祖から西のアバヤあたりでは、昔からサメのことをワニと呼んでいました。なかでも、岩場の洞窟には影ワニという怪魚が住んでいるという言い伝えがあり、人々は恐れていました。そのワニは、海が凪の時に出ると言われていたため、村では凪の日には漁に出てはならないという掟が作られました。

ところがある時、二人の若い漁師が掟に背いて凪の日に漁に出かけました。海はおだやかでおもしろいように魚が釣れるため、漁師たちは日が傾いてくるまで釣りを続けます。二人の影が海面に映ると、海中からワニが現れ、一人を飲み込み、海中へと潜っていきます。残された漁師は、ほうほうのていで逃げ帰ったものの、周囲から厳しく責められ、掟を守ることの厳しさを思い知らされました。

しかし、強く誓ったはずの掟でしたが、時代が変わるとまた新たな掟破りが現れます。同じように血気盛んな若者が「せっかくの良い天気なのに漁ができないなんてバカげている!」と怒りながら海に出ようとします。そんな彼へ和尚は「影ワニに出会ったら、むしろでも板でも海に投げ込んで自分の影を消せ」とアドバイスしました。思った通り、大漁に喜ぶ若者でしたが、日が落ちて海面に彼の影が映るようになると、同じように影ワニが襲いかかってきます。若者は和尚の言葉に従い、釣った魚や板、むしろなどを投げ込み、抵抗します。日が暮れて、影が海に溶け込んでしまうと、ようやく影ワニは立ち去りました。

九死に一生を得た若者が村に帰り、一連の出来事を話すと、村人たちは「なぜ影ワニは凪の日ばかりに現れるのか」「我々の漁のじゃまをしているみたいだ」と言います。それらの言葉を聞き、和尚は「影ワニも魚も海で生きている。我々人間も、その生き物のおかげで生きていられる。我々人間が漁をするように、影ワニからすれば自分の猟場を守っているだけかもしれない。そうだとすれば影ワニと出会わないように漁をする方がいいし、それが海で長く漁をする者の智慧というものではないかな」と答えました。それから、村人たちは凪の日には漁を控え、掟が永く守られていくことになったようです。

落語家が語る演目、というスタイルが楽しいこのお話。プロデューサーと音響監督も務めた沼田心之介監督は、演出家の神名真由里さんのアイディアが功を奏したと言います。

「実はTVアニメ『日本の昔ばなし』でも同じ手法は使ったことがありまして、こちらは『掟は破らないでおきてえ』というダジャレを思いついて、この言葉で締めくくりたい、という演出家さんからのアイディアでした。ワニに食べられてしまう、という怖いお話だったので、落語家が登場して話すというスタイルにすることで、観てくれる子供たちには、民話に込められた学びが伝えやすくなるかなと思いました」

昭和時代に放送された「まんが日本むかしばなし」シリーズでも映像化されたり、2015・16年放送の深夜アニメ「影鰐-KAGEWANI-」のモチーフとなるなど、幾度も映像化されてきた民話ですが、過去の作品では、サメの姿をはっきり描くことはなかったり、太古の生物兵器として生み出された不気味な奇獣として登場したりと、ホラー色が強いものばかりでした。

「姿の見えないものが襲ってくるスタイルですと『海の学び』っていうものがなかなか表現しづらいな、と感じました。他の作品もそうですが、より具体的な表現をすることで、しっかりと民話の中に込められた教訓を子ども達に伝えることを大前提にしています。なので、本作ではサメの危険性をわかりやすく伝えるために、凶暴なイメージで知られるホオジロザメの姿をはっきりと描きました」

この作品で、演出家の神名真由里さんは、キャラクターデザイン、絵コンテ、作画も手掛けています。

「この方は、いろいろなことにチャレンジをされるアニメ作家さんで、過去には全編切り絵風な作品を制作されていました。今回も味わい深いタッチの絵柄と落語家の語りという演出で、今までにない『影ワニ』が出来上がりました」

海の生き物との共存や、乱獲への戒めなど、さまざまな「海の学び」が込められている民話「影ワニ」。風光明媚な海岸もしっかり描くなど、大田市の豊かな自然も目で味わうことができるアニメとして、子どもから大人まで、幅広い年代の方に親しんでもらいたいですね。

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