日本財団海と日本海のまちプロジェクト

今こそ伝えたい海の民話アニメーション

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民話に込められた海への教訓を現代的な民話アニメで学ぶ「琴姫の松」が完成!

作品公開
2023年3月22日

2018年よりはじまった「海ノ民話のまちプロジェクト」。これは日本財団が推進する海と日本プロジェクトの一環として、日本中に残された民話を発掘し、アニメーションをベースとした親しみやすい表現で「海との関わり」や「地域の誇り」を子供たちへ伝え語り継ぐことを目的としたものです。プロジェクト発足5年目となる2022年も、日本各地から選ばれた海ノ民話15作品を映像化。そのうちのひとつとして、宮崎県延岡市に伝わる民話「琴姫の松」が完成しました。

このお話の舞台は、延岡市土々呂地区にある霧島神社。その森には枝が大きく、風に葉が揺れると琴の音のように聞こえることから「琴ひきの松」と呼ばれる松がありました。村の人々は、漁に行く前には必ず松の木に手を合わせ、海の安全を願っていました。

ある日、男が海辺で漁をしていると、見慣れない船が姿を現しました。自分の舟で近くまで行き、中に誰かいないかを確認した男は、三尺琴を抱きかかえながら倒れている娘を発見します。いくら呼び掛けても目を覚まさない娘を連れ帰ると、村は大騒ぎとなりました。娘に対し、村人たちは「どこぞの戦で敗れた国のお姫様じゃなかろうか」「琴を一つ持って海からやって来たから琴姫様じゃ」と口々に話し、彼女を見守ることとなりました。それからしばらくして、動くことができるようになった娘ですが、何一つ話をすることもなく、毎日琴を抱えて海ばかり見ていました。
そんなある夜更け、村を地震が襲い、浜辺では潮が引いていきます。津波の到来を予測し、村人たちが大急ぎで山へ避難する中、男は娘が無事に逃げたかを確かめようと、大声を出しながら捜します。いよいよ津波が沖に迫ってくる中、男の耳が琴の音をとらえます。ふと浜辺を見ると、そこには琴を弾く娘の姿がありました。男が大声で、すぐ逃げるように呼び掛けるも、娘はただひたすらに琴を弾き続けます。

ついに高波が村を飲み込もうとする寸前、娘は結い上げていた髪にさしたくしをを手に取り、波へ向かって投げました。すると、驚いたことに津波が引いていき、夜が明けると海は何もなかったようにすっかり穏やかになっていました。そして、不思議なことに浜辺には娘のくしだけが残っていました。
村人たちは「きっとあの娘は霧島神社の松の精だったんだ」と言って、松の根元にくしをまつり、琴姫の松をこれまで以上に大切にしたそうです。

冒頭から、空を飛ぶ鳥のように、海から浜辺へ、浜辺から「琴ひきの松」のある山頂へと続く参道を登っていく…。そんな現代的な3DCGならではの表現が、これまでの民話アニメにはなかった“新しさ”を感じさせてくれる「琴姫の松」。2021年度認定作品「銀のつづらと金の浜」も手掛けた演出家・館 信一郎さんが、文芸、キャラクターデザイン、絵コンテ、作画、撮影など、ほとんどのポジションを一人で担当しています。

本作でラインプロデューサーを務める沼田友之介さんは、作品へ抱いた印象をこのように語りました。

「演出家の館さんは、もともと3DCGアニメーションが得意な方なんです。冒頭から、ちょっと面白い感じのドキドキ感が伝わってくるような作品になったな、と感じましたね。琴姫が乗っている船の吹き流しなどの動きも3DCGならではの表現で描かれていて、細やかなこだわりが感じられるアニメに仕上がっていると思います」

音楽プロデューサーも務める沼田さん。どのタイミングでどんなBGMや効果音を入れるのかを決める仕事も担当しています。

「この作品では、琴姫が琴を弾いて、津波へくしを投げる瞬間が、一番印象に残るメインのシーンじゃないかな、と思いました。なので、そこに入る音楽で緊張感を出して、音で盛り上げていくことを意識しましたね」

宮崎県延岡市で行われたキックオフミーティングへも参加したという沼田さん。霧島神社など、民話の舞台となった場所へも足を運んだと言います。

「今回、延岡市を訪れて、民話の舞台となった場所を直に観たことで、演出家の方にいろいろお伝えすることがありましたね。実際の地域で見聞きしたことが作品に反映できたと思います」

浜辺から琴姫の松がある場所までの道のりを冒頭でしっかり描くことによって、津波がやって来た際は、霧島神社のような高台へいち早く避難することが大切だと学ぶことができる本作。ミステリアスな美しさを放つ琴姫と、彼女が弾く、どこかもの悲しい琴の音色に思いを馳せながら、先人が民話に込めた教訓をアニメという形で、次の世代へと伝えていきたいですね。

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