日本財団海と日本海のまちプロジェクト

今こそ伝えたい海の民話アニメーション

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アニメーター・湖川友謙が「いわき鮫川のサメ伝説」に続いて手掛けた新作が完成!

作品公開
活用イベント
2023年3月30日

2018年よりはじまった「海ノ民話のまちプロジェクト」。これは日本財団が推進する海と日本プロジェクトの一環として、日本中に残された民話を発掘し、アニメーションをベースとした親しみやすい表現で「海との関わり」や「地域の誇り」を子供たちへ伝え語り継ぐことを目的としたものです。プロジェクト発足5年目となる2022年も、日本各地から選ばれた海ノ民話15作品を映像化。そのうちのひとつとして、福島県東白川郡鮫川村に伝わる民話をもとにした「鮫川のサメ伝説『化身した黄金の鮫』」が完成しました。

その昔、いわきの国の村に中野という長者夫婦が住んでいました。あたり一帯の田端は全て長者の持ちもので、何ひとつ不自由ない夫婦でしたが、唯一子どもがいませんでした。何とか一人でも子どもが欲しい夫婦は氏神様に祈願しはじめた中で、無事に女の子が誕生。紀美と名付けられた娘は、蝶よ花よと育てられ、紀美は活発に明るく成長していきました。

16歳を迎える頃の紀美の美しさは、近所はもちろんのこと、遠く岩代の国までも評判になっていました。しかしながら、紀美の顔色が悪くなったようだという噂が広まる中、噂は噂でなくなり、紀美は人目を避け、一日中すすり泣くことが続いていました。
ついに寝たきりとなった紀美は、日に日に容態が悪化し、まるで死を待つばかりの有り様になっていました。やがて冬が来て、春が去った頃、紀美は長者夫婦を枕元に呼び、こう言いました。「渡瀬にある大きな池を魅せてください、どうか私が死ぬ前に…お願いします」
さっそく長者は医者や周りの者たちに指示を出し、池へと紀美を連れて行きます。うっそうとした森の影を映して静まりかえる池に、紀美は思い詰めたような表情で池に体をあずけたのです。

驚く周りの者たちの前に、池の中から姿を現したのは、池の主でした。「私はもとより、この池の主です。人間の世界を知りたく化身して、中野の娘となりました。しかし、この池にもどることが私の身の上です。皆様方にはひとかたならぬお世話になりました。このご恩は決して忘れません」といい、池の中へ姿を消しました。
長者夫婦は娘を失った悲しみと、ことの不思議さに驚き、嘆くばかりでした。娘の寝ていた床を調べてみると、そこには黄金のうろこが3片落ちており、本当に紀美は、彼女自身が言うとおり、化身していた鮫だったのです。
このことがあって以来、紀美が消えた池は鮫池と呼ばれるようになり、その後、長者の家は代々栄え、長者夫婦が世を去るのを同じくして、鮫は池を出て川を下り、番城の海へ行ったということです。人々はこの川を鮫川といい、村の名も鮫川村と呼ばれるようになったということです。

海水にも淡水にも住むことができるオオメジロザメにまつわる伝説が残る福島県の「海ノ民話」は、福島県いわき市に伝わる民話をアニメ化した2021年度認定作品「いわき鮫川のサメ伝説」に続いて二作目となります。3月28日には、鮫川村公民館で完成上映会が開催されました。

子どもからお年寄りまで、幅広い年代の方々が参加されたこの会は、出演声優の冨田 泰代さんによるパフォーマンスや、発声方法のワークショップなどが行われたほか、沼田心之介監督による「アニメーションができるまで」の紹介、そしてエリア事務局からは、実際にアニメに出てきた鮫川の源流にあたる池まで行った様子などが紹介されました。
現在、山の中にある池は、藪を切り開いて30分ほど歩かなければいけないという状況ですが、今後、村の方で整備して、子どもなど多くの方が歩いていけるようにします、とのお話があり、鮫川村の観光名所がまたひとつ増えそうです。

また、上映会の後は子供たちが冨田さんにサインをねだって行列が出来る一幕も。役場の方からも「冨田さんのパフォーマンスに子供たちは目をキラキラさせていたし、我々も感動した」「普段経験できない声優というお仕事に触れさせることが出来て良かった」などのコメントをいただきました。今後は、子供たちの地域学習の教材などでも、民話やアニメが紹介されていくということです。

「いわき鮫川のサメ伝説」と同じ演出家・湖川友謙さんが、文芸、キャラクターデザイン、絵コンテ、作画、美術、背景、色彩設計を担当した本作。昭和中期から現在も日本アニメ界で活躍されている、スーパーアニメーターである湖川さんが手掛けた両作には、洗練された筆致のキャラクターや鮫のデザイン、紙芝居を観ているかのような味わい深い演出など共通点が多々あります。「海ノ民話プロジェクト」初となる、ひとつの川の上流と下流を繋ぐ構成の民話、ぜひ、二作併せてお楽しみください。

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