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日本の文化を楽しみながら感じられる、
学術的に読み解く「海ノ民話」の背景
知力・表現力を養う幼児からの体験教育プログラムを実践する「創造性開発アトリエ」、かるがも教室を主宰する志村裕子さんに、民話でこそ伝えられる世界について伺った。
子供たちに愛着を育てる民話の楽しみ方を
民話と呼ばれる物語は、子供たちでも簡単に覚えることができます。その理由は、物語の語り手が聞き手へ、聞き手が語り手となるうちに、日本人だれもがわかりやすい言葉とストーリー構成にブラッシュアップされてきたからです。聞くだけではなく自ら語る。この繰り返しによって、子供たちはその物語に入り込むことができるのです。さらに、お話の主人公に自分を重ねることによって、物語は深く心に根付いていきます。また、「作り遊び」や「ごっこ遊び」で物語の世界を再現すると、より深い理解が生まれます。例えば、「海ノ民話」の「おなべ岩」は、お婆さんとタコのお話ですが、タコの作品を作ってみるなどをすると、より民話の世界を身近に感じられるはずです。作り遊びを取り入れるなら、3、4歳の子供たちでも、民話を楽しむことができます。このように、子供たちの愛着を育てる民話の楽しみ方は、さまざまです。ぜひお試しください。
例えば、日本の民話である「亀の松」では、母は子を助けるため亀の姿になったまま人間に戻りません。それに対して、外国の物語では人間から動物に姿を変えたとしても、もとの人間の姿に戻り、結婚で終わるという特徴があります。台風の通る日本では、自然界のリズムに従いながら、狩猟や採集で生計を立ててきました。恩恵と同時に被害を受ける生活だったので、当然ながら自然への畏敬の念が育ちました。それに対して、古くから牧畜や栽培で生計を立ててきたヨーロッパ大陸では、自然や動植物は、人間がコントロールできるものとして捉えられています。このような文化の違いは、アニメーションでこそ伝えられる世界観であると思います。
民話には、モラルや教訓など日本人が良しとしてきた価値観が、語り継がれる間に、自然と盛り込まれています。世界観、信仰、風俗、社会的秩序。それらの文化を、こういうものだよと教えるのではなく、楽しみながら知ることができ、感じることができます。現代はグローバル化が進み、テレビなどメディアのコンテンツから文化的差異が減る傾向にあります。日本の文化を伝えるためにも、「海ノ民話」のアニメーションは重要な意義を担っていると考えます。
ドキドキする冒険や笑ってしまう失敗談だってある
民話とは、昔話や伝説など、昔から語り継がれてきたお話、昔語りのことです。日本の国ができて間もないころの大昔、ふしぎなこと、おもしろいこと、恐ろしいことがたくさんおこりました。人々はこれらの出来事をお話にして、口伝えで伝えあいました。長い年月、広い地域で、たくさんの人々が伝えるうちに、お話はみんなが同じように大切に思う「生きるための知恵」を伝える昔話となりました。ドキドキするような冒険やヒーローの活躍、不思議な出来事や笑ってしまう失敗談もあります。昔話の多くは、語られてきた長い間に、名前や場所を指し示さないお話となりました。それに対して、ある決まった場所で起こった大切な出来事は、忘れないように、伝説として語り続けられました。今もそこにある身近な場所で、昔、お話に語られたような出来事が起こったなんて、驚きますね。
「海ノ民話アニメーション」を手がかりにして、お話の場所が今どこにあるのか、ぜひ探してもらいたいです。昔の地図がなくても、今の地図の上に、絵地図を重ねて描くとわかるかもしれません。行くことができたなら、お話に出てくる人になったつもりで、その場所に立ってください。「何がおこるのかな?」などと感じたら、次は、誰かにそのお話をしてあげてください。あなたがお話をすることで、あなたの気持ちといっしょに、昔の人の「生きるための知恵」も伝わります。絵地図ができていたら、見せてあげてくださいね。あなた自身が、未来へお話をつなげる語り手となってください。
「海ノ民話アニメーション」で気に入った作品
「一里島」は、島を主人公にする切り口が面白いところです。