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親から子へ、世代を越えて伝えていくべき
着物文化の伝統を守るためにできること
“和服”という別称が示すように、日本の伝統的衣装として認識されている着物。明治期に政府が行った日本の近代化に伴う洋服着用推進によって着物離れが起こり、現代では、卒業式や成人式、結婚式など、いわゆるハレの日に主に女性が着用する、高価で華やかな衣装という存在になってしまった。
海外の工場で生産された、流行を取り入れた手頃な価格の洋服を季節ごとに買い換える“ファストファッション”が若者の間で主流となり、環境負荷が上昇している中、親から子、子から孫へと受け継がれる着物は、養蚕にはじまり、本友禅や西陣織といった、さまざまな日本の伝統文化の結晶とも言え、その魅力や価値を再認識する動きが国内外で起きている。
そんな着物を愛し、唯一無二の魅力を伝えたいと、さまざまな活動を行っている着付け講師・上嶋たみえさんに、着物の現在地について聞いた。
行事からも姿が消える深刻な着物離れ 着物の魅力を伝えるきっかけ作りを
ひとことで言うと悲惨ですね。儀式や行事でも着物を着ることはほとんどない状態です。もちろん、成人式では若いお嬢さん方が華やかな振り袖を着ていますし、男性でも紋付き袴姿で参加される方が多いようですが、結婚式やお葬式といった場面では着物姿の方はあまり見かけなくなりました。テレビでも時代劇の放送がめっきり少なくなっていて、そういうところからも着物離れを実感しています。
やはり、今の若い方のさらに親世代から始まっている着物離れが原因だと思います。「着物はハレの日に着るもの」という先入観があるんですよね。でも、着物を着るのにお金は必要ないんですよ。家の箪笥を開けて、そこにしまってある着物を着るだけでいいんです。親子3代と言わず、末代まで着られるようなものなんです。皆さんが「着物が高い」とおっしゃるので、呉服屋さんは「じゃあ今流行っている、こういうのをやってみよう」と新しいことにチャレンジするのですが、それでまた売れなくなるんですよ。「着付けができないという人が多いからセパレートの着物を、帯が結べない人に向けた作り帯を作ろう」と呉服屋さんが考えて売り出すじゃないですか。でも、ある程度のところまで商品が出回ると、あとは売れないんですよ。そうすると呉服屋さんの売り上げがどんどん少なくなっていく、という悪循環が起きた結果が、今の和服業界だと思います。
大ヒットしたアニメ『鬼滅の刃』がきっかけで、子どもたちや10代の若い子たちが、着物や、市松模様や厄除け・魔除けの「麻の葉模様」などの伝統的な柄に興味を持ってくれました。そういった取っ掛かりが大切なんだなと思います。「着物ってこうなんだ」と思ってもらえるきっかけがあれば、着物を取り巻く状況も変わっていくのかな、と思ったりもしています。私ひとりの力ではできることは限られていますが、そんな中でもできることをやろうと、着物でお出かけしたり、着付け教室もやっていますし、着物の立ち居振る舞いが必要ということで日本舞踊を始めました。ご家族で着付けをさせていただいているご家族に9歳の女の子がいるのですが、着物と日本舞踊を習いたいと言ってくれまして、先日初舞台を踏みました。着物が好きだ、日本舞踊っていいなっていう気持ちはやっぱり体に出るんですね。とても素敵な踊りを見せてくれました。
民話のような昔話って、私の世代では親ではなく、おばあちゃんから聞いていました。そういうものを語れる人がいなくなるのと同じように、着物の世界でも、基本をわかっている年代の皆さんがだんだん亡くなっていっています。そういう意味では、着物と、語り部がいなくなることで忘れられていく民話には共通点があるように思います。でも、着物を着る人が増えれば、仕立てをする人、反物を織る人、それを染める人と、着物に関わる人たちの産業も守ることができます。海ノ民話も、【海ノ民話プロジェクト】のアニメを通して、子どもたちに海の素晴らしさや民話に込められた教訓などを残していけるのでは、と感じます。
まとめ
着物という大好きな伝統文化を守るため、日頃から和服姿でその魅力をアピールされている上嶋さん。細部まで神経が行き届いた着こなしはもちろん、その所作の美しさが強く印象に残った。着物同様に、長い歳月をかけて今に伝えられてきた海ノ民話も、上嶋さんのように愛を持って、次代に継いでいくことの大切さを教えていただいた。