日本財団海と日本海のまちプロジェクト

今こそ伝えたい海の民話アニメーション

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太平洋を旅した神様と御神輿をコミカルに描いた「八幡宮の神輿」

作品公開
2023年3月20日

2018年よりはじまった「海ノ民話のまちプロジェクト」。これは日本財団が推進する海と日本プロジェクトの一環として、日本中に残された民話を発掘し、アニメーションをベースとした親しみやすい表現で「海との関わり」や「地域の誇り」を子供たちへ伝え語り継ぐことを目的としたものです。プロジェクト発足5年目となる2022年も、日本各地から選ばれた海ノ民話15作品を映像化。そのうちのひとつとして、高知県須崎市に伝わる民話「八幡宮の神輿」が完成しました。

このお話の舞台となるのは、高知県須崎市にある富士が浜。須崎の海は村人たちに豊かさをもたらし、人々は、須崎八幡宮にまつられている神様と御神輿のおかげだと信じ、盛大なお祭りが行われていました。しかし、宝永4年10月4日(1707年10月28日)の昼頃に発生した南海地震による大きな津波に襲われ、神様と御神輿は引き波と共に太平洋に流れ出してしまいました。

御神輿は太平洋沿いに漂流し、5日後の10月8日に数百里も離れた静岡県は西伊豆の岩地に流れ着きます。それを見つけた土地の人々は「これはおろそかにしてはならない」と、近くに社(やしろ)をこしらえ、そこを新八幡宮と称し、大切に御神輿をまつりました。すると、海は凪ぎ、大漁の日が続いたことから、「これは御神輿のおかげに違いない」と、漁師たちは新八幡宮に集まり、手を合わせて感謝の祈りを捧げます。しかし、御神輿の中には書き付けが入っていて「土州須崎浦八幡宮」と記された寄進者の名前まで書いてありました。
「このまま、御神輿をここへ置いておいてもいいのだろうか」「須崎浦にお返しすべきでは」「しかし、この御神輿がやって来てから、豊漁続きだ」と、土地の人々の意見はなかなかまとまりません。その一方で、大事な御神輿が伊豆に流れ着いたことを風の便りで知った須崎浦の人々は、さっそく御神輿を迎えに行くことに。そして、西伊豆では新八幡宮の神主が、おみくじで御神輿の気持ちを聞いてみたところ、「須崎浦八幡宮」と書かれたくじが選ばれ、御神輿は須崎浦へ帰ることに。しかし、重い御神輿をどう運んだものか、と悩んでいたところ、廻船業を営む人々の力添えにより、宝永5年の6月末には、御神輿は無事に須崎浦に到着。津波によって破壊された八幡宮が復旧され、正式に奉納されたのは同年の9月11日のことだったそうです。

このお話で、プロデューサーと音響監督も務めた沼田心之介監督は、須崎市の地元の皆さんが出してくださったアイディアをたくさん盛り込んだ作品になったと言います。

「八幡様という神様を登場させて、コミカルなタッチのお話にする、というのは須崎市の方々からのご提案です。温かみのあるキャラクターデザインと合わせ、子どもから大人まで、幅広い年代の方に楽しみながら、日本の地理や漁、そして過去に起きた津波などについて学ぶことができる作品になったと思います」

この作品でキャラクターデザイン、絵コンテ、演出、作画、美術・背景を手掛けたのは三野一さんです。

「この方は、色づかいが華やかなのが魅力なんですよね。過去にも、何作も昔ばなしアニメを作っていただいていたのですが『海ノ民話アニメーション』では、本作が初登板になります。キャラクターも可愛いですし、色づかいも鮮やかなので、素晴らしいものを作ってくれるだろうと期待を寄せていましたが、それを上回る作品を生み出してくださいました」

高知県の保護無形文化財に指定されている、多ノ郷の太刀踊り(花取踊り)や、神様のお供え物として登場するマダイ、漁師たちが釣り上げるカツオなど、須崎市の名物もしっかり描かれている本作。須崎市と西伊豆町との関わりなど、海にまつわるさまざまな歴史や文化を学ぶことができるアニメとして、これからもずっと多くの人に愛されることでしょう。

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