日本財団海と日本海のまちプロジェクト

今こそ伝えたい海の民話アニメーション

インタビュー

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海女漁の文化だけでなく
生き方や営みそのものを残していきたい

海女漁操業
三重県魚食リーダー
小寺 めぐみ
こでら めぐみ
岐阜県加茂郡出身。システムエンジニアとして愛知県の企業で勤務の後、夫の事業承継を機に、三重県鳥羽市菅島へUターン移住。海女漁の操業をしながら、「母・妻・嫁の他に、漁村女性の自分に何ができるか」という考えのもと、魚食普及のための料理教室、海女漁獲物のブランド化や6次産業化に取り組んでいる。全国漁協女性部連絡協議会「フレッシュミズ部会」、水産庁「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」最年少一期生メンバー。男女双子の二児の母。

古来より美しい海と豊かな海洋資源に恵まれている三重県鳥羽市。市の全域が伊勢志摩国立公園に位置し、古来より海女文化が受け継がれてきたことでも知られている。志摩半島では、約660人(2017年・鳥羽市海の博物館調査)の海女が今も健在。アワビ・サザエ・ナマコ・海藻をとる女性の素潜り漁は、「鳥羽・志摩の海女漁の技術」として、2017年に国の重要無形民俗文化財に指定された。

鳥羽市にある離島のひとつ・菅島(すがしま)で海女漁を営む小寺めぐみさんは、水産庁の「海の宝!水産女子元気プロジェクト」メンバーをはじめ、さまざまなフィールドで海と海女文化の魅力を発信し続けている。そんな小寺さんに「海ノ民話のまちプロジェクト」に感じる可能性について聞いた。

自然や他者をあるがまま受け入れる 共同体に根ざした海女漁の持続可能性

海女漁に携わるようになったきっかけを教えてください。

海女の母を持つ夫と出会い、海女文化が残る漁村の離島に嫁いで子育てをする中で、海の楽しさだけじゃなくて怖さも教える必要があると思ったんですね。そして、やはり母である自身が直接、子どもにそういったことを伝えたいと思ったのがきっかけです。
私は海のない岐阜県出身ですが、むしろ海に囲まれて育っていないことで、海女にはない概念を持っていて。やはり、泳ぐのと潜るのとは違いますし、命に関わることになので、義理の母からは「そんな危険なことはさせられない」と当初は反対されましたね。ただ口で言うだけでは気持ちの度合いが伝わらないと思ったので、勝手にウェットスーツを買ってしまいました(笑)。実は、海女漁で使う伝統的な漁具は、どなたかが融通してくれないと買えないものなんですが、私の場合は、気づいた時にはいろんな方がしっかりしたものを揃えてくださっていたんです。道具を作ってくださった人、揃えてくださった人、それぞれの思いを携えて海に初めて潜った時、すごく感慨深いものがありました。

海女として海への向き合い方、海への思いを教えてください。

最初、海女漁は、時間になったら海に行って潜って、漁協の競りにかけて……といった単純な仕事だと思っていたんです。でも、太陽の昇り沈みや潮の満ち引き、天気の良し悪しなど、刻々と変わっていく人間の力の及ばないものにすごく左右される仕事だなと実感しました。そういった営みの中で、本当に人間というのはただ自然の一部なんだな、という実感があり、自然を受け入れることを学びました。また、他者に対しても“ありのまま”“あるがまま”というものに抵抗感を持たなくなりました。これは、海女漁を通じて学ぶことができた、これからの人生の糧だと感じています。
全員が顔見知りという島で暮らしている中での海女漁は、公平公正でないといけないんですね。もちろん、資源管理の意味もあって決められたことでもありますし、どこかに不幸があった時には一斉に漁が中止になるなど、海女漁をする人全員の安全確保ができない時には漁は行われないんです。自然から派生した人間の共同体の大切さが根底にあるからこそ、海女は持続可能な漁法とも言われていますし、続けてこられたんだなということを感じました。

海女として海の民話というものをどうとらえていますか?

伊勢志摩地方の海女漁の中で「トモカヅキ」という民話が伝わっています。海女が一人で海に潜って漁をしていると、自分そっくりの姿の海女がどこからともなく現れ、アワビなどの海産物を渡そうとしてくるが、うっかり受け取ろうとすると腕をつかまれて深みに引きずり込まれてしまう、といったお話で、「欲を出してはいけない」という戒めが込められています。ただでさえ命賭けの漁の中で身の丈以上のものを求めると危険なことが起こる、ということを教えてくれているんだなと、初めて聞いた時に思いました。海女になる以前の仕事はSEをしていたのですが、その際も無理し過ぎると過労になるとか、メンタルが不安定になるということに気をつけなければならなかったんです。本当の自身を見つめ直して、他のものと向き合うことの大切さが、民話「トモカヅキ」の中にも、海女漁の中にも込められているんだなと思いました。
このトモカズキ除けのために、「ドーマンセーマン」と呼ばれる模様を道具に描いてもらったんです。「これには妖怪、魔除けの意味があるんやで」って言われました。仲間に守られているという安心感もありますし、見るたびにトモカズキの話を思い出して無理はしないように気をつけるべきだということを思い起こすことができる、いい仕組みだと思います。

海女という職業を消えさせないためにどのようなことが必要だと思いますか?

海女自体は、色濃い文化であり、かつ守られているものなので、後世に伝わっていくと思います。ただ、どうしても日本の社会構造上、少子高齢化には抗えなくて、その中で海女文化と海女漁を残すのであれば、生き方そのものが残っていく必要があると思うんです。海への祈りから始まって、海から得た恵みに対して、感謝の謝(いやび)の気持ちを持ってお礼を重ねる……いくら職業として残ったとしても、そういった営みが消えてしまっては意味がないですし、そこを残すことが海女漁の存続には最も重要な部分だと思います。

【海ノ民話のまちプロジェクト】が、これからの子どもたちにどんなことができると思いますか?

私たち菅島で暮らしている人々は、自然寄りの生活をしていますが、日本では大多数の方が経済活動中心に暮らしていると思います。そんな中で、昔から伝えられていたけど忘れられていること、自分が感じていたけど忘れてしまったことなどを、思い起こさせてくれるものが【海ノ民話のまちプロジェクト】のアニメーションだと感じています。昭和に生まれた私の世代では、TVアニメなどのおかげで民話は身近なものでしたが、平成以降はインターネットやゲームの普及もあって、次世代の子どもたちが民話に触れられる機会が減ってしまっているのかもしれません。そんな時代に、子どもたちが民話に込められた先人の知恵に触れることのできる機会となるアニメには、大きな意味があると思います。

まとめ

自然と共に生きる中で、海と人、人と人、人と文化といったつながりを強く感じていると小寺さんは語る。少子化や職業の多様化などの影響により、新たに海女になる人は少ないというが、身ひとつで海に入る職業であるがゆえに、そこで生きるための知恵を「トモカズキ」という民話に込め、何世代にも渡って語り継いできた伊勢志摩の海女さんたちが築いてきた文化は、この先も続いていくことだろう。

2023年2月9日公開、2024年3月19日再掲載
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