民話×地域づくりの可能性を熱く語り合った 『海ノ民話アニメーション上映会 2022』を開催しました
日本各地の海の民話をアニメにして子どもたちに伝え語り継ぐ「海ノ民話のまちプロジェクト」。2018年より一般社団法人日本昔ばなし協会が推進し、アニメ化を機に各地で民話を活かした地域づくり等が動いています。1月22日(日)に開催した『海ノ民話アニメーション上映会2022』では、作品上映とあわせて女優・作家・歌手の中江有里さん、桃太郎を研究し出版した中学生、海女さん、アニメ監督や人気声優さん他、多彩なゲストが民話活用の可能性を語りました。このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環で開催しました。
『海ノ民話アニメーション上映会2022』ライブ配信アーカイブはこちら。
『海ノ民話アニメーション上映会2022』レポート
イベントは二部構成で実施され、第一部は、「海ノ民話のまちプロジェクト」の軌跡、15本のアニメ上映とゲストトークを展開。第二部では2018年から2022年までに制作した日本各地の『海ノ民話』アニメ27作品を一挙上映しました。
海の民話をアニメにする意味を共有したオープニングの『海ノ民話のまちプロジェクト』の軌跡
まず登場したのは、日本財団の海野光行 常務理事と女優・作家・歌手として活躍されている中江有里さんです。
このプロジェクト実施の理由や民話をアニメーションにした背景などを紹介しました。
また、日本財団 笹川陽平会長からは「海の民話には『海への感謝や教訓、警鐘』が含まれている。例えば魚や貝などの海の資源を取り過ぎないように、感謝しながら海と共に生きていく心構えがあった昔の人たちの海への想いが、海の民話を通して語り継がれてきた。海ノ民話のまちプロジェクトでは、海の民話をアニメーション化して、未来の子どもたちへ『海への想い』を引き継いで行きたいと思っている。本日の上映会ではゲストによる民話アニメについて面白い話があります。どうぞ皆さんで楽しんでください。」とビデオメッセージがありました。
「多くの民話には感謝や教訓、警鐘や心がまえなど、先人たちが込めた『想い』が詰まっています」と語る海野常務。民衆のなかから生まれ、語り継がれてきた民話が、少子高齢化や市町村合併などの影響により消失の危機に。「海にまつわる民話を記録保存し『海と人とのつながり』や『地域の誇り』、海心を子どもたちに伝え、継承していく必要があると考えプロジェクトをスタートさせました。
アニメという手法を選んだのは世代を超えて、とりわけ子どもたちに伝えていくため。柔らかいタッチと親しみやすい画、語りかけるような優しさのある声の作品にしたいと切望していたところ、「まんが日本昔ばなし」のチームにいた皆さんに出会うことができ、アニメ制作が可能になりました」と、海野常務はその背景を語りました。
子どもの頃から「まんが日本昔ばなし」をテレビでよく観ていたという中江さん。「今思えば、テレビで昔ばなしを見ていたことで、昔があって今があることを子どもながらになんとなく知ることができていた。昔ばなしに触れることはとても貴重なのだと思います。」そう語る中江さんは、『海ノ民話』をYouTubeで観ることができることの魅力や、1話が子どもでも飽きない短さであることにも着目していました。
地域と連携し、民話が教えてくれることをわかりやすく丁寧にアニメで制作
続いてステージに登壇したのは一般社団法人日本昔ばなし協会 代表理事で『海ノ民話のまちプロジェクト』の監督を務める沼田心之介と今治市産業部交流振興局文化振興課課長の波頭健さん。
沼田監督は、「海ノ民話のアニメ作品は、実際に現地を訪ねて地域ごとに実行委員会を作り、地元のさまざまな方々と意見交換をして丁寧に作っている。船で民話の現地に赴くこともあり、地元の人が大切にしてきたことや文化を取り入れて作品を作っています。とりわけ海の民話が教えてくれることを分かりやすく表現したいと思い、試行錯誤しました。」と沼田監督。
舞台となった地域や民話が教えてくれることをわかりやすく1分にまとめ、作品の最後にギュッと学びが盛り込まれています。
実際に『海ノ民話』を教育に活用している事例を紹介
続いて『海ノ民話』を活用した二つの事例が紹介されました。
一つは、創業1902年の老舗・神奈川県藤沢市の中村屋羊羹店さんの事例です。アニメで可愛らしいキャラクターになった弁天様を商品のパッケージに展開して販売し、題材となった江の島の『海ノ民話・五頭龍と弁天様』を店頭の小型モニターで上映しています。製造が間に合わないほどの人気商品になっています。
続いて紹介されたのは愛媛県今治市での事例です。市内の全小学4年生を対象に『海ノ民話』の上映授業を実施して、子どもたちに学びの場を提供。さらに全小学校5年生を対象に、専門家による『海ノ民話』の出前授業を展開しています。
その効果について今治市産業部交流振興局文化振興課課長の波頭健さんは、「今治市で伝承されてきた『海ノ民話・クジラのお礼まいり』から得られる学びが一層深まり、地域への愛郷心を高まるきっかけになったと教育現場から評価の声が届いています」と紹介。引き続き教育現場で『海ノ民話』を活用し、海から得る教訓や学びを子どもたちに伝えていくとコメント。
「民話もその土地特有の宝ではないかと改めて思いました。『海ノ民話』をアニメにすることで、地元の方がその宝を改めて自覚する、まちを誇りに思うきっかけになるようにも思います。『海ノ民話』をきっかけにコラボ商品が生まれ、地域の活性化につながるという良い流れに感心しました」と中江さん。
ゲストトークを交えつつ、3つのテーマで作品を上映
テーマ1「語り継がれる民話のチカラ」
ここからは、現在までに制作した42作品のなかから15作品を3つのテーマに分けて上映。テーマに関連したゲストトークが繰り広げられました。
1つ目のテーマは「語り継がれる民話のチカラ」。学習要素のある5作品が上映され、お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーション研究所特任講師の里浩彰さん、桃太郎を研究し執筆した作品で文部科学大臣賞を2度も受賞した桃太郎博士の中学3年生、倉持よつばさんが登壇。
里さんは、「海ノ民話」を取り入れた授業について、自分が住んでいる地域が海とどう関わってきたのかをより臨場感を持って理解することができる、として次のように評価しました。
「『海ノ民話』アニメ1作品の中に多くの学びがあり、他の地域の民話と比較すると、それぞれの地域の特徴が見えてきて、新たな気づきもあります。1作品が5分というのも良いですね。それぞれの作品に勉強として抽出しやすい要素があり、授業をする立場として活用できると思っています。」
日本各地にある桃太郎の昔ばなしを研究している倉持さん。自身の学校での体験から「民話をアニメにすると学びが頭に入りやすく、自分から学びたいと思うようになります。私自身は、歴史が好きなので、民話から歴史を推測したり、その土地を知るきっかけになったり、古典を学ぶきっかけになるといいなと思っています」と語りました。
テーマ2「地域を豊かにする海文化」を建築と海女業の視点から語る
2つ目のテーマは、地域の成り立ちや地名に由来のある5作品。登壇したのは、大手前大学建築&芸術学部専任講師の下田元毅さん。三重県鳥羽海女&水産庁「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」メンバー、小寺めぐみさんです。
下田さんは、愛媛県の佐田岬半島にある神社や町並みに触れながら。「海際の地域には、その土地の風土に呼応した地域固有の町並みをみることができます。地域に根ざした町並みは地域固有の可視化されたアイデンティティと言えるのではないでしょうか」と話しました。
海女漁と水産物の商品化など、地域資源を守りながら活性化に尽力されている小寺さんは、海女という生き方と海への向き合い方を紹介。
さらに下田さんと小寺さんは、漁村文化を語り継ぐことの重要性についても教えてくれました。
「民話をはじめとする漁村文化を継承していくことは、子どもたちが自分のまちに対して肯定的なイメージを醸成する重要なエレメント、自分のまちを好きになる、誇りに思うきっかけになります。外部の目を通して地域の見えないものを見える形として残していくことが、これからの時代の伝承の手法としてとても大切だと思っています。」と下田さん。
小寺さんは「漁村文化の中心にあるのは自然の恵み、地域のつながりの中でお願いの祈りから始まり、お礼の祈りに結ばれる営みと考えています。昔は誰かから伝わってきたことやものを、今からは私たちが伝えていく、伝わっていくように変えていかなければいけないと思います。」と語りました。
テーマ3「アニメ芸術としての民話」、人気声優さんが会場でアフレコを披露
最後のテーマは「アニメ芸術としての民話」。制作過程で特に技術的にこだわった作品が上映されました。
登壇したのは、アニメ・映画で声優として活躍されている二人、「おかあさんといっしょ」ファンターネ!マーキー役・四宮豪さんと同じく「おかあさんといっしょ」ガラピコぷ〜ムームー役・冨田泰代さん。そしてアニメーション監督でありアニメーション演出家、アニメーター、漫画家でもある樋口雅一さんです。
アニメ界での昔ばなしの魅力や価値について語られた樋口さん。今のアニメは完全分業制だそうですが、昔ばなしは1作品が5分から10分のため、ストーリーからアニメーションの動き、どんな演出にするかなどを作家一人で完結することができるそうです。「昔ばなしは、クリエイター自身の個性や思いをつぎ込んでつくることができる、とてもやりがいのある、貴重で楽しくありがたい仕事なんです」とクリエイターにとっての魅力を熱く語る樋口さん。
冨田さんは『海ノ民話』について「『まんが日本昔ばなし』を観ていたので親近感があり、懐かしく感じました。漁師さんの服装はこんなだったんだと、日本文化も垣間見ることができますね」と話しました。
「絵柄も含めて絵本に近いイメージがありますね。アニメーションなのにページを1枚1枚めくっている感じがあって、親しみやすく取り組みやすいと感じました」と述べたのは四宮さん。その時代の流行りや土地の風習など、細かいところまでしっかり描かれているのが面白いですね」と語りました。
そしてなんと四宮さんと冨田さんは、「竜王の子の約束」という『海ノ民話』の一場面のアフレコを会場で披露!一人で何役も声を変えて演じる様子に来場者が感激し、盛り上がりました。
最後にお三方より「海ノ民話のまちプロジェクト」に対する期待が寄せられました。
冨田さん「郷土愛や自分のまちへの誇りも育む『海ノ民話』。遠くの学校同士をオンラインでつなぎ、自分のまちの『海ノ民話』を見せ合ってまちを紹介する。子どもたちがそんな語り部になって、『海ノ民話』が拡がっていけばいいなと思います」
四宮さん「このプロジェクトがいろんなかたちで拡がってつながっていって欲しいですね。今は標準語で収録していますが、例えば、愛媛のみなさんが愛媛の言葉で声を入れるなど、現地バージョンができると面白いなと思っていて、僕たちも参加したいという夢を持っています」
樋口さん「ものをつくる立場として、昔ばなしをアニメにする機会があるのは本当に嬉しいことです。これからもどんどん作品をつくって欲しいと期待しています」
2023年度はアニメ制作と同時に新たに3つの取り組みをスタート!
最後に海野常務から、プログラムの総評と2023年度の展望が3つ紹介されました。
展望の一つは「海ノ民話のまち」ネットワークの構築。二つ目は、有識者ネットワークの構築。民話に関する包括的な資料の制作にチャレンジしたい!と熱く語りました。三つ目は、漁師の方々、作家の先生など異業種異分野との繋がり。これについて海野常務は、「ARやVRで子どもたちが民話の世界へ没頭して楽しめるような環境づくりも行っていきたい。」と展望を述べました。
以上で第一部は閉幕し、第二部では、初公開の新作アニメを含め、これまでに制作した『海ノ民話』27作品を一挙上映。アニメファンやお子様連れのお客様が楽しんでいました。