日本財団海と日本海のまちプロジェクト

今こそ伝えたい海の民話アニメーション

インタビュー

05
変わりゆく漁業を巡る環境や海の恵みの大事さを、
漁師として次世代に伝えていく

大津漁協組合長
豊頃町町議会議長
中村 純也
なかむら じゅんや
1968年、北海道中川郡豊頃町大津生まれ。大津小、大津中、帯広北高卒業後、1988年に家業の漁業に就く。2005年から中村漁業部代表。2015年から町議会の副議長、2023年から議長を務める。

農業と漁業、そして林業といった第一次産業が盛んな北海道。特に帯広市を中心とする十勝地方は、小豆や乳製品がブランド化し、消費者の信頼度は群を抜いている。漁業でもサケ漁が有名で、十勝東南端に位置する、農業と漁業を基幹産業とする人口約3000人の町・豊頃町の大津港で水揚げされるサケは「新巻鮭」として、冬の贈答品の中でも根強い人気を誇る。そんな大津で代々、漁業を営んでいるのが大津漁協組合長の中村純也氏。2023年からは町議会の議長も務める同氏の視点から【海ノ民話のまちプロジェクト】への印象を語ってもらった。

子どもたちに漁業への関心を持ってもらうための取り組み

子どもの頃に聞かされた、海にまつわる民話や言い伝えはありますか?

「海の神様が嫉妬するから女性は船に乗れない」「亀が網にかかったら、神様のお使いだからお酒を飲ませて海に帰すといいことがある」といった普遍的な言い伝え以外は、残念ながら聞いたことがないですね。その一方で、海の中にある、すぐ目には見えないものを獲りに行くということから、神様といった存在を大事にするという文化は今も残っています。また、昭和初期から大津沿岸の漁場では、船卸し、網起こし、網曳きといった一連の漁作業の際に『大津ハオイ』という歌が漁師の間で歌われていたようですが、現在80代以上の先輩方が、それを実際に歌ったことのある最後の代となってしまいました。漁船や漁法の進化によって、歌う機会が失われたのが原因だと思います。

豊頃町で暮らす子どもたちと海、漁業の関わり方についてお聞かせください。

地球温暖化が叫ばれる中で、北海道でもブリが獲れるようになってきたように、漁業をめぐる環境がどんどん変わっていくと思います。そういった状況を子どもたちに伝えて、興味を持ってもらえるような仕組みを作らないといけないな、とは感じています。大津小学校では、4年生が授業で地引き網体験をしたり、小学校の全児童を対象に、種苗中間育成施設で育成管理されていたマツカワの稚魚の放流体験学習を行うなど、海の恵みを実体験する機会を設け、私たち大津漁業協同組合がサポートしています。ただ、大津地域にある小学校は、全校生徒が11人という状況です。そんな過疎化・少子高齢化の中でも、目の前にある海のことや、そこで生きる漁師という仕事の魅力をしっかり伝えていかなければいけないな、と思っています。

中村さんが思う漁師という仕事の魅力をお聞かせください。

やっぱり、おいしい魚が食べられる、というのが最大の魅力ですよね。そして、「海に出てみないと、どんな魚がどれぐらい獲れるかわからない」「獲れば獲った分、お金になる」という一攫千金的なところも、漁師という仕事でなければ味わえない醍醐味だと思います。

豊頃町で「海ノ民話」アニメーションを活用するとしたら、どのような方法が考えられるでしょうか?

十勝発祥の地でもある豊頃町は、日本の歴史という観点から言えば、まだまだ新しい土地なので、残念ながら町に伝わる民話というものはありませんが、町の根幹でもある漁業や、海の恵みといったものを子どもたちに知ってもらうために、『海ノ民話アニメーション』の上映会を開いたり、授業に取り入れたりと、いろいろな活用方法があると思います。ものすごいスピードで時代が変わっていく中でも、子どもたちが興味・関心を持てるような形で、海と密接に生きてきた昔の人たちの思いを後世に伝えることは、本当に大切なことですし、【海ノ民話のまちプロジェクト】が、果たす役割はとても大きいと思います。

まとめ

子どもたちが親しみやすいアニメーションを通して、町を支える漁業への関心を持ってもらう。そんな取り組みの中で、民話に込められた先人たちの知恵や海への畏敬の念を次代に繋げることが【海ノ民話のまちプロジェクト】の使命なのだと、同氏の言葉から再確認できた。

2023年1月25日公開、2024年3月19日再掲載
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