日本財団海と日本海のまちプロジェクト

今こそ伝えたい海の民話アニメーション

インタビュー

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発酵食品と魚食のコラボで
未来に受け継ぐ日本の伝統的な食文化

発酵料理研究家
Cozy Kitchen(コージーキッチン)代表
高木 佐知子
たかぎ さちこ
糀マイスター/みそソムリエとして、糀や発酵食品を手軽に取り入れて、肩に力の入らない自家製調味料のある暮らしを提案。3人の子育て&フルタイム都内勤務の経験を生かした、忙しい人でも続けられる「働くヒトの発酵食教室」が人気。料理教室講師、レシピ・コラム執筆、メニュー開発などの活動中。水産庁の水産女子プロジェクトメンバーとして魚食普及活動にも力を入れている。

味噌、醤油、酒、納豆、漬け物など、乳酸菌や麹菌といった微生物の働きによって味や栄養価が高められている発酵食品は、古来より日本の食卓を彩り続けてきた。免疫力の向上やアレルギー反応抑制などの健康効果が研究によって明らかになっただけでなく、2013年に「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを機に、日本はもとより世界各国で発酵食品に熱い視線が注がれるようになっている。

醤油やみりんなど、発酵食品の名産地として知られる千葉県で、発酵講座や料理教室「コージーキッチン」を主宰する発酵料理研究家・高木佐知子さんは、2017年にJF全漁連の「第2回JF全国女性連フレッシュ・ミズ部会」にて講師を務めたことをきっかけに漁業や生産者とつながり、2019年からは「魚食」の魅力を伝える活動も行っている。そんな高木さんに「海ノ民話のまちプロジェクト」に感じる可能性について聞いた。

発酵食品の魅力をより多くの人に 魚食から海を大切にする気持ちを育む

発酵料理研究に携わるようになったきっかけを教えてください。

生まれは千葉県柏市で、流山市は現在の居住地になります。幼少期は柏市で農家を営む祖父母と暮らしていたため、自家製の漬物など発酵食品が身近にありました。そういった環境で生まれ育ったので、発酵には元々興味があったんです。2016年に三女の育児休暇を終えてフルタイムで会社へ復帰する際に、健康的な料理を効率よく作れるようになりたい、と思うようになりました。糀などを使った発酵食品が時短料理にも活用できると知り、「糀と発酵を学ぼう!」と思い立ちました。その頃、千葉県柏市で一般社団法人日本糀文化協会さんが、発酵概論など糀について体系的に学べる講座を開講していたことから「糀マイスター」という資格を取得しました。

発酵の歴史や地域的な文化、微生物の働きなど糀について学ぶうちに「この魅力をより多くの人に知ってもらいたい」という思いが湧き、同時期に通っていた千葉県流山市が主催する創業スクールで「糀の講師として活動する」というテーマでプレゼンテーションを行ったことをきっかけに、塩麹や味噌作り講座を行うようになりました。その後、創業スクールの卒業生イベントでパネリストとして登壇したときに「若手女性に向けて講師をしてもらえないか」と全漁連さんにお声掛けいただいたり、糀を使ったレシピを書かせてもらったりして現在に至ります。

発酵と海産物が出会って生まれた水産発酵食品には、どんなものがあるのでしょうか。

もともと、魚と糀や発酵は相性がいいんです。味噌漬けや塩麹漬け、みりん干しなど、多彩な調理法があります。酒盗、このわたも塩辛の一種ですね。秋田県の「しょっつる」、北陸の「いしる」、瀬戸内海地方の「イカナゴ醤油」など、熟成させた魚介類からとれる液体を調味料として利用する魚醤も発酵食品です。北海道から東北にかけての北日本でよく食べられる、魚と野菜を米麹に漬けて乳酸発酵させた「飯寿司」、魚をぬか漬けにした「へしこ」や「こんかさば」などもあります。中でも滋賀県の「鮒寿し」は、平安時代の法典「延喜式」に名前が記されているほど歴史ある発酵食品です。また、和食には欠かせない鰹節は世界一硬い発酵食品です。さらに、石川県名産の珍味「ふぐの子」は、猛毒で知られるふぐの卵巣の塩漬けをさらに何年もかけて糠漬けや粕漬けにすることで無毒化したもので、これはまさに発酵の奇跡だと思います。

各地の漁師さんとのコラボレーションによる「漁師さんの料理教室」を主催されていますね。

最初はSNSで魚のグループに参加したり、講師活動デビューの際にお世話になった全漁連さん経由で漁業関係の方々とつながる中で、山口県の現役漁師さんとSNS経由で知り合ったんです。私が料理教室を初めてやらせてもらった豊洲のヨガスタジオで、もう10年ほど漁師教室を開催されているというご縁もあって、ご一緒させていただきました。2022年11月に行った「漁師さんの料理教室in流山【2022秋】」では、【瀬戸内の「タコ」と、西の民にとっての高級魚「サワラ」づくし】をテーマに、サワラのお刺身を関東醤油と山口県の甘い醤油で食べ比べたり、サワラを炊きたてのご飯にまぜる「炊かず飯」や沢煮、アラの塩焼きを作りました。参加された皆さんから「美味しかった」「魚料理をやってみようと思った」という喜びの声をいただけました。漁師さんたちが実際にされる料理は、刺身や煮付けのようにシンプルなものが多くて、「漁師料理というのは特別なものではないんだよ」とおっしゃっていました。

発酵食品と魚食の架け橋を担う視点から、「海ノ民話のまちプロジェクト」にはどのような可能性があると思いますか?

「海ノ民話」のアニメーションに登場する魚を刺身にして醤油で食べるなど、視覚や聴覚に加えて味覚と嗅覚と触覚を刺激しながら、海の恵みや民話の中に込められた「海を大切にしよう」という気持ちを学ぶというように、発酵食品と魚食とのコラボレーションも可能だと思います。アニメーションを自宅で視聴したのですが、私の娘たちもとても興味を示して楽しんでいました。母親の視点からも、各話の最後にナレーションで民話にまつわる知識やそこに込められた思いなどを学ぶことができるので、とても素敵なプロジェクトだと思います。先人の知恵が込められた「海ノ民話」とともに、美味しくて健康に良い発酵食品を今の子どもたち、そして未来の子どもたちに受け継いでいくお手伝いができるとうれしいですね。

まとめ

民話が生まれた「むかしむかし」の時代から、海や畑で獲れた美味しいものを遠くの都まで運ぶ中で発展し、今も和食文化を支える発酵食品。しかし、食の欧米化が進む近年は、チーズなど乳発酵食品の輸入量が増加傾向にある一方で、たくあんや味噌などの伝統的な発酵食品の生産量や魚介類の消費量は減少傾向にある。そんな時代にあっても、「先人たちが愛し、守り、伝えてきた文化」という仲間でもある「海ノ民話」と発酵食品は、これからも海の恵みがもたらす恩恵を、五感を通して後世へ伝える力があるのだと再認識することができた。

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Cozy Kitchen〜醸す台所〜

Cozy Kitchen〜醸す台所〜

2023年2月3日公開、2024年3月19日再掲載
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