10
「海ノ民話アニメーション」声優が語る、
読み聞かせと民話の親和性
日本各地の海の民話をアニメにして子どもたちに伝え語り継ぐ「海ノ民話のまちプロジェクト」。その根幹を担う「海ノ民話アニメーション」で、2019年度作品より声優を務めているのが、賢プロダクションに所属する四宮 豪さんと冨田 泰代さん。たった2人で、ナレーションをはじめ、漁師やその子ども、島や神様など、様々なキャラクターに命を吹き込むという神業を披露している。「赤ちゃんから大人まで絵本を楽しもう!」をコンセプトとする読み聞かせ広場「けんけんぱーく」の主要メンバーでもあるお2人に、民話と現代の子どもたちとの関係性などについて聞いた。
読み聞かせは対面での 双方向コミュニケーション
四宮:僕と冨田さんが所属している声優プロダクション「賢プロダクション」に所属するメンバーが、絵本の読み聞かせを行う広場として月1回公演していました。僕らが子どもたちに読み聞かせしている間、お母さんはちょっと楽にゆったりしてもらえれば、といった場所が作りたいということから始まったんですよね。
冨田:声優仲間でも、ママになって子育てに追われてなかなか仕事に復帰できない人が増えていたんです。そんな中でマネージャーさんがいろいろと考えてくれて、声優活動に復帰する足がかりとしてこういう読み聞かせ広場から少しずつ、人前でのお仕事に戻れるようにしよう、というのがきっかけでした。
四宮:立ち上げたマネージャーにもお子さんがいて、「子どもを連れていく場所がない」「一瞬でも目を離していられない」といった、お母さんたちの悩みをリアルに感じて、「どういう場所があったら楽かな」と考えてのスタートだったと聞いています。
冨田:そうなんですよ。やっぱり、小さなお子さんがいると、どうしても大きな声を出してしまうので、観劇に行けないんですよね。そのマネージャーは、図書館で開催されていた読み聞かせの会へ行っても、やっぱりちょっと物足りなかったらしくて(笑)。
四宮:声優プロダクションが主催して、役者にしかできないようなエンタメ性のある読み聞かせもあっていいんじゃないかな、と。ちょっとお芝居が入ったり、立ち上がってしゃべったり演技してもいいじゃない、みたいな感じを読み聞かせでできたらな、と思って始まりました。
冨田:コロナ禍の前までは、ハロウィンやクリスマスなどには出張公演のお声が必ず掛かっていましたね。
四宮:保育園に行ったり、大きな会場やステージでやったりと、活動の幅は結構広がっていたんです。でも、今は残念ながら通常の活動も対面ではできなくなってしまったので、開店休業みたいな状態です。
四宮:今の状況では難しいのですが、読み聞かせのような対面での活動は、目の前にいる子どもたちに対して、こちらからアクションを出すと、反応が直で返ってくる。そういうコミュニケーションを通して、お話がどんどん盛り上がって、最後には「面白かったな」ってお家に帰ってもらえるんですよね。読み手と聞き手が一緒にその空間を作っているというのが、通常の声優仕事と読み聞かせとの大きな違いだと思っています。
冨田:やっぱり対面で読み聞かせしていますと、子どもたちがちょこちょこ感想を言ってくれたりするんです。そこから「おじいさんが何とかしたね」「そうだね。面白いおじいさんだね」みたいな、ちょっとした会話でどんどん盛り上がっていくことがあるのは、対面の良さだと感じています。
人間の変わらない本質を描く 地方に根ざした民話で交流を
四宮:7月の第3月曜日に制定されている海の日に、海がテーマの絵本をたくさん読むようなイベントもやってみたいです。「海ノ民話アニメーション」で描かれた作品が絵本になった際は、ぜひ縁の土地それぞれの図書館に置いてもらって、そこで読み聞かせができたらいいな、と思っています。
以前、愛媛県松山市の民話『おたるがした』のイベントで登壇した際に、来ていただいた方々に「これは皆さんの町の話なんですが、ご存知ですか」といった話をしたんですが、大人の方でも意外と知らないものなんだなと感じました。昔話や民話は、子どもの頃はよく耳にするけれども、大人になると触れる機会が減ってしまうのだと思います。僕は京都の出身なんですが、『天のかけ橋と金樽いわし』が京都府宮津市に伝わる民話をアニメ化した作品だったので、よくよく調べてみると、父の実家がその近くでした。「仕事で親父の実家方面の話をしたよ」と連絡して、あらためて親子の交流のきっかけにもなりました。
冨田:なかなか地方の方との交流はないのですが「海ノ民話アニメーション」が駅で流れていたことで、「流れてたよ」「見ました」といったお声をいただいたりもして、少しでもつながりができてよかったなと実感しました。東京でずっと生活していると、海を感じたり、海の近くに住んでいる方のお話を聞く機会もなかなかないのですが、このお仕事を通してつながることができたという喜びがありましたね。
四宮:2019年度作品から今まで、声優としてプロジェクトに携わらせていただくうちに、民話そのものが、お話としてすごく面白いということを再認識しました。学生の頃にちょっとだけ民話の勉強のようなものをしていたんですけど、人と人以外の存在との結婚を描く異類婚姻譚や、アニメやライトノベルの異世界転生に近いようなお話があったりと、現代でも変わらず楽しめる作品があるんですよね。なので、もっといろんな民話を知りたいですし、地方の特色を感じられるお話が楽しめるというのも大きな魅力だなと思っているので、楽しく演じさせていただいています。
冨田:お話を見ていると「ああ、私も確かに欲深い人間だったわ」と、自分を振り返るきっかけにもなるな、と思います。あるだけ獲ってしまうとか、気を付けろって言われているのに忠告を聞かずに行ってしまったりとか……。どんなに時代が移り変わっても人間にはそういった変わらない部分がありますし、どんどんこういうことを語り継いでいかないといけないなということを、身に沁みていつも感じています。
四宮:「海ノ民話アニメーション」は、今後もますます増えていくということなので、どんどんやらせてほしいですね。海ノ民話って、本当に面白いんですよ。なので、もっとプロジェクト自体がいろんな形に広がって、繋がっていってほしいなと思いますし、その一端を担わせていただけるのもすごく光栄なことだと思っています。
冨田:子どもたちと一緒に「海ノ民話アニメーション」をどんどん見て、作ってっていきたいと思うので、これからもよろしくお願いします。作品を通して各地の地理や歴史を学ぶ中で、自分たちが暮らしている日本をもっと知りたいな、と思うようになりました。子どもたちにも、日本をもっと愛して大切にする気持ちを育んでほしいですし、もっと広がっていくといいなと思います。
四宮:早く今の状況が落ち着いて、また人と対面しての読み聞かせなどができるようになってほしい、と強く願っています。生アフレコや地元の言葉での読み聞かせなど、いろいろやりたいなと思うことはたくさんありますしね。
まとめ
2019年度作品より「海ノ民話アニメーション」で声優を務めているお二人。多彩な声色を使い分けて様々なキャラクターを演じるテクニックは、まさに卓越した技量で、2023年1月22日に開催された『海ノ民話アニメーション上映会 2022』で披露された生アフレコでは、その圧倒的な演技力と表現力に、会場からは感嘆の声があちこちから上がっていた。
海ノ民話に命を吹き込む、お二人の温かく優しい声があれば、「海ノ民話プロジェクト」は、この先も子どもから大人まで、多くの人の記憶に残る作品を作り続けていくことができるだろうという確信を持つことができた。
SNS
「とみチャンネル」
自作のパペット“エビフライピー子”と読み聞かせをしたり、子どもたちとダンスを踊っている。