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サイエンスをもっと身近なものに
「海ノ民話」を理科教育に活用
海の民話からの学びとは何か? 海そのものや沿岸部の危険性啓発、災害対処法、海の恵みへの感謝など考えられることは多い。それらを次代へ繋ぐために民話は有効なツールだ。海の民話を教育に活用する場合、国語や社会といった人文系科目を思い浮かべると思う。ところが「海ノ民話のまち」のアニメーションを、地学、天文学、生態学の授業に活用した例がある。お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーション研究所の特任講師、里浩彰先生だ。
直感的に興味を引く「海ノ民話」は子どもたちに最適な映像教材
私が所属する研究所は設立して10年以上が経過します。設立趣旨は、科学を日常的な文化にしたいということ。たとえるなら料理のことを考えるように。または俳句を作るように。科学を難しいものとして捉えるのではなく、日常の近くにある文化にしたい、と。私も多くの人が気軽にサイエンスを楽しめたらいいなと思うんです。そのために私たちが注目しているのが、主に小・中学校の公教育です。つまり放課後や塾などではなく、正規の授業に入り込んでいくことを、具体的な方策としてやっているところです。
小・中学校の理科の授業では、最初に現象と事象があり、それを見て感動したり、不思議だなと思うことが大事だと思っています。その気づきがあるから、「何が起きているのか」という仮説を立てて、理解に取り組むプロセスになるんです。この最初の事象の提示として民話はちょうどいい。しかもそれがアニメであれば、なおさら子どもたちになじみがある。奥深い内容だけどパッと見て、直感的に自分に興味があるものを気付かせる。そういうことに民話は最適だと思ったんです。
潮の満ち引きに関する月の引力の話を、子どもたちにもわかるように頑張って説明したんですが……なかなか難しかったですね。ただ、子どもたちには「今は全部はわからなくてもいいよ。ここまででいいよ」と示すようにしました。今回も月の話や、2つの物体が引き合うことを伝え、最終的には潮の満ち引きには月が関係しているんだということだけ覚えてくれればいいと話しました。
実際の現象だけでなく、子どもたちの興味を気軽に引けるという意味では、非常に優れた映像教材だと思います。現在、文部科学省が「GIGAスクール構想」という、児童・生徒に1人1台の端末配備と各学校に高速ネットワーク環境を配備することを進めています。それもコロナ禍により前倒しで進み、子どもたちが学校で、各種データベースやYouTubeなど映像サイトにアクセスする環境が整い始めました。それによって子どもたちが自ら課題や問題を見つけやすくなっており、そんな時代にすごく合っていると思います。
今回の授業に際し、子どもたちには海の環境が悪化していて、今治の漁獲量も減っていると話しました。すると子どもたちは、「ごみを拾う、ポイ捨てはしない」と思いますよね。それはすごく良いことですが、実は「ごみを捨てない」だけではなく、自分たちの生活習慣も変えていかなくてはいけません。そのヒントが「海ノ民話」にはあると思いますし、それを活かし、生活を変えていこうと考える子どもたちを育成できればと思うんです。これは環境学習にも通じること。結局、マイバッグを持ちますとか、マイボトルを持ちますということがゴールになってしまうと、そこで止まってしまうんです。それも大事なことですが、もっと大きな生活スタイルの改善や方法を考えられる子どもを生み出したい。いつもそう考えながら、試行錯誤を繰り返しています。
まとめ
「海ノ民話」のアニメを地域の文化や道徳の教育に活用するだけでなく、科学関連の教育に役立てることで、子どもたちの可能性をもっと拡大しようと活動している里先生。今回、伺った愛媛県今治市だけでなく、災害復興地域における理科教育など、科学教育が将来を担う子どもたちのためにいかに重要かを認識させられた。子どもたちが「海ノ民話」の物語に込められた先人たちの知恵を科学的に理解する、そのきっかけとしてアニメーションが果たす役割は大きい。