13
漁師の立場から漁業の未来につながる
環境づくりと情報発信に力を注ぐ
JF全国漁青連会長理事
魚食離れに加え、過疎化による後継者不足や少子高齢化、地球温暖化に伴う海水温の上昇など、さまざまな問題に直面する水産業。そんな中でも海を愛し、その恵みとともに生きることを選択する若手水産従事者が日本各地で活躍している。そのうちの1人、JF全国漁青連(漁協青年部の全国団体)の会長理事・川畑友和さんは、鹿児島県指宿市山川で小型定置網漁を営む中、YouTubeや小学校への出前授業などを通じ、水産業の未来を見据えた活動を続けている。そんな川畑さんに、漁業や子どもたちと海との関わりなどについて話を聞いた。
変わりゆく海に対応した魚食文化の普及や子どもたちに海に親しんでもらう取り組み
もともと祖父が魚類養殖と定置網漁を営んでいまして、2代目となる父が定置網漁をのれん分けしてもらう形で引き継いでいました。私は地元を離れて就職していたのですが、父が1人で頑張っている様子を見ていて「大変そうだな」「手伝おうかな」という感じで帰郷し、漁業を受け継ぎました。実は、サーフィンなどのマリンスポーツが好きなので「自由気ままに趣味を楽しめるかな」という気持ちも少なからずありましたね(笑)。最初は趣味と実益を兼ねて帰郷しましたが、今では漁業がメインになってしまいました。
港のある山川エリアは、明治期から2006年に指宿市・揖宿郡開聞町と合併するまでは独立した町でした。江戸時代は島津氏の直轄地でもあり、カツオの水揚げでは現在も日本有数の水揚げ量を誇っていますが、昔は船など漁に関わる作業が機械化されていなかったこともあって漁業に従事する方々が大勢いて、映画館もあるほどにぎわっていたんです。ですが、漁業の近代化や後継者不足による廃業などを受け、どんどん人がいなくなってしまい、今ではだいぶ寂れてしまいました。とはいえ、赤道付近で漁をしてきた海外巻き網船が、山川のかつおぶし製造工場の材料となるカツオを年間数万トン水揚げしています。山川港の水揚げ量の98%くらいが、境港や石巻船籍の船や大手水産会社の海外まき網船が外洋で獲ってきたカツオで、残りの2%は、われわれ沿岸漁民の水揚げという感じです。山川水産加工業協同組合によると、山川港の2021年度かつお節生産量は合計6162トン、金額は64億円にのぼり、全国でも有数の生産地となっています。最高級とされる仕上げ節(本枯節)は、指宿山川産が全国の約7割のシェアを占めています。
私が行っているのは定置網漁なので、入るものは何でもござれなのですが、水揚げの7割をマアジが占めています。一方で、サメやエイ、イルカ、カメなど、いろんな魚が網の中に入ってきます。その中でも、やはり地球温暖化による海水温の上昇の影響で、「沖縄県の魚」にも指定されているグルクン、別名タカサゴも獲れるようになってきたんです。今まで獲れなかった魚が現れることについて問題視する風潮が少なからずありますが、実は一番の問題は、食べる文化がないことなんです。鹿児島ではグルクンを食べないんです。でも、魚がどんどん北上している現状を踏まえて、新しく獲れるようになった魚を食べる文化を私たちで作っていかなければならないと、全国の青年部組織やご当地の青年部組織が魚食普及の活動をしています。
「獲れるものが獲れなくなってきた」という部分での危機感は皆、一様に大きいですね。沿岸海域で海藻が著しく減少・消失し、繁茂しなくなる現象を「磯焼け」と呼ぶのですが、それはウニや魚類が海藻を食べてしまうことが大きな原因です。中でも、ワカメやヒジキ、アカモクなどの海藻類を食べてしまうだけでなく、毒針を持っているアイゴという魚が、5~6年前に東京湾でも出てきたということを聞いていたのですが、今では宮城県で冬を越すようになったそうです。他にも、北海道や石川県などでも水温が上昇していて、やっぱり地球温暖化の影響は間違いなくあると思っています。ですが、水温を下げるのは、正直もう難しい状況なので、地球温暖化防止に貢献する海草場、海藻場などのブルーカーボン生態系の保全に本気で取り組んでいこうという機運を押し上げていかないといけないですね。
「鹿児島の漁師ともちゃん」チャンネルでは、定置網操業の様子と、獲れた魚を使った料理や食レポにチャレンジしています。サブチャンネルでは、海を生業としている漁師の視点から、世界中で注目されているSDGs(持続可能な開発目標)の目標13「気候変動に具体的な対策を」に注目した海藻・海草についての保全活動に関する動画を投稿しています。さまざまな検証を行いながら、全国の漁師さんが見た時に「なるほど、こういうやり方があるのね」というところを伝えていきたいと思っています。
マダイやヒラメの放流授業を行っています。小学生に「海とは何ぞや」「今、海はこうなっているんだよ」という話をしつつ、「稚魚を放流することによって、おじさんたち漁師が助かるんだよ」「みんなもおいしい魚が食べられるんだよ」ということを伝えています。その真意は、子どもたちを海に連れて行きたい、ということなんですよ。私が小学生の頃は、同級生と砂浜で遊んでいたんですよね。でも、今は砂浜で子どもを見る機会が山川ですらない。その理由は、危険なので子どもたちだけでは絶対に海に行かないよう親が強く言い聞かせている。そして、海で仕事をする漁師さんが減ってしまったがために、何かあっても注意してくれる人、助けてくれる人がいない、というような部分も大きいと思っています。せっかく目の前に山も海も川もあるのに、こんな大自然に触れ合わずに家の中にこもってゲームをしたり動画を観たりしているだけではもったいない。そういった問題を解決するには、大人がきっかけ作りをしてあげないといけないんですよね。そこで、放流という活動を通じて海に触れる機会を増やしています。出張授業では、アマモという海藻の種播きをして苗床作りも体験してもらっています。その中で「海ノ民話プロジェクト」で制作したアニメの中から海藻が登場する作品を上映して、海藻の形やゆらめき方などを観て知ってもらったり、興味を持ってもらうといった取り組みも可能だと思います。
今回の取材を機に、周囲に「山川に伝わる海の民話ってあるかな?」と聞いてみたところ、同級生は、お盆時期に漁をしていると幽霊が近づいてきて「柄杓を貸せ」と声をかけてくる「船幽霊」の話をしてくれました。私自身も「山川の海の民話」と聞いても、すぐに答えられないのが現状です。もしかしたら幼い頃に聞いていたのかもしれませんが、残念ながらあまり覚えていないですね。
まとめ
鎌倉時代の文献に名前が残るほどの歴史ある山川港でも、固有の民話が失われ、子どもたちにも海離れが進んでいる。そんな現実に驚かされる一方で、YouTubeや体験授業など、さまざまな取り組みで水産業の支え手の育成に注力している川畑さんのフットワークの軽さ、情熱的な語り口から、日本の若手漁師さんたちの前向きな姿勢を感じ取ることができた。海を愛し、その恵みのありがたさを最も知る彼らの活動に今後も期待したい。
SNS
「鹿児島の漁師ともちゃん」
「 鹿児島の環境活動家ともちゃん」