日本財団海と日本海のまちプロジェクト

今こそ伝えたい海の民話アニメーション

インタビュー

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「海ノ民話」に見る可能性
「ビブリオバトル」ならぬ「民話バトル」を

女優・作家・歌手
中江 有里
なかえ ゆり
1973年生まれ、大阪府出身。1989年に芸能界デビューし、NHK朝の連続テレビ小説「走らんか!」、映画「学校」「風の歌が聴きたい」など、数多くのTVドラマや映画に出演。脚本家としては、2002年「納豆ウドン」が第23回NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞で最高賞を受賞。NHK BS2「週刊ブックレビュー」で司会を務めたほか、読書に関する講演や、小説、エッセイ、書評を多く手がける。著書に小説「水の月」(潮出版社)、「万葉と沙羅」(文藝春秋)、「わたしたちの秘密」(中央公論新社)など。公益財団法人ブルーシーアンドグリーンランド財団理事、文化庁文化審議会委員などの役職も務める。

日本各地の海の民話をアニメにして子どもたちに伝え語り継ぐ「海ノ民話のまちプロジェクト」。2018年より一般社団法人日本昔ばなし協会が推進し、アニメ化を機に各地で民話を活かした地域づくり等が実施されている。1月22日(日)に開催した「海ノ民話アニメーション上映会2022」には、作品上映に加えて女優・作家・歌手の中江有里さんも登壇し、日本財団の海野光行常務理事と共に「海ノ民話のまちプロジェクト」の軌跡をたどりながら、プロジェクトの未来についても語り合った。イベント終了後、中江さんに「海ノ民話のまちプロジェクト」へ寄せる思いを聞いた。

遠回りでも多角的な視野を培う 民話が果たす役割の重要性

「海ノ民話アニメーション上映会2022」にご出席してのご感想は?

日本各地に、それぞれ民話が残っていることは知っていましたが、海に特化した「海ノ民話」というものを意識したことは今までありませんでした。今回の上映会への参加を前に、YouTubeで公開されている作品をいろいろ拝見して「こんなに色々な民話があるんだな」ということを知ることができました。上映会では、沼田心之介監督や、今治市の産業部交流振興局文化振興課の課長さんといった現場の方々のお話も聞くことができて、アニメ制作というのは思った以上にいろいろな方が関わる大変なプロジェクトなんだということをあらためて実感しました。

「海ノ民話アニメーション」を視聴されての印象はいかがですか?

『お屋敷になったクジラ』が伝わる和歌山県串本町に行ったことがあるんです。国の天然記念物の橋杭岩がある無骨な景観がすごく印象に残っていたので、興味深く観させていただきました。橋杭岩自体にも、弘法大師と天邪鬼が熊野地方を一緒に旅をしている中で串本までたどり着いて、天邪鬼と競争して橋をかけようとしてあの岩群ができたという伝説が残っているんですよね。そんなお話も盛り込まれていたのが、とてもいいなと思いました。串本町を訪れると、誰もが「あんな不思議な形をした岩が、なぜあんな風にゴロゴロとあるんだろう」と不思議に思うでしょうし、そこに伝説や民話といったストーリーを与えて、最終的に「なぜ橋杭岩ができたのか」という理由を知るという流れは、結構回り道だと感じる方が多いかもしれませんが、私は回り道の方が、ものごとをよく覚えられると思いますね。

子どもたちに対する民話の役割はどういったものだと思われますか?

子どもたちに「何かをやってはいけないよ」と伝えるのに「警察に捕まるから」「ルールで決まっているから」ではなく、「お天道様が見ているから」と伝えるのは、遠回りかもしれませんがとても重要なことで、民話がその役割を果たしていると思うんですよね。フィクションであっても、第三者の視点を持つきっかけになるものや自分の想像力を掻き立ててくれるものと出会うことで、多角的な視野を得ていく。子どもは、そういうことがすごく得意だからこそ、フィクションの話にも強く入り込めるし、情報に対する反応がすごく強いんですよね。大人は、すでに多角的な視野と自分の価値観が確立されているので「これはないだろう」と切り捨ててしまいますが、子どもはそうじゃない。だからこそ、民話と子どもたちの親和性はすごく高いと感じました。

日本各地の民話が語り部を失い消えていくことが危惧されているのと同様に、中江さんが数多くご出演されてきた時代劇も、制作規模の縮小によって作品に不可欠な小道具やカツラの制作技術の存続を危ぶむ声が近年、聞かれています。

時代劇に携わってきた方々から、そういった声が上がっていることは知っています。日本の伝統工芸なども、同じような状況だとも聞きました。たとえば、日本人形も分業で制作されていて、頭も専門家が作り、着物も人間が着るものと同じ工程で作られます。ひとつの技術が途切れると完成しない、というのが工芸品なので、この問題は日本各地、もっと大きく言えば日本の伝統工芸の衰退にも繋がっていくのでは、と感じています。その一方で、人から人へ技術を伝承することに価値があると思うので、技術などを機械化して残すというのは、いろいろな意味で難しいのだと感じています。

「海ノ民話アニメーション」には、どのような可能性があると思いますか?

読書に関する仕事を多くさせていただいているのですが、読書家の中では、誰かに本を紹介する際に「ビブリオバトル」という書評合戦をすることがあるんです。好きな本を持ち寄って、順番に1人5分間という制限時間の中で本の魅力を紹介して、参加者全員でプレゼンテーションについての意見交換を2~3分間行った後、最後に「どの本が一番読みたくなったか」を決めるものなのですが、「海ノ民話アニメーション」でも、それぞれの自分たちの地域の民話の魅力をプレゼンしあう「民話バトル」なんてどうでしょうか。「どういう部分がいいと思ったのか」という意見をまとめて、プレゼンしていく中で、民話を自分たちのものとして捉えることができて、もっと認識や愛着が深まるんじゃないかなと感じます。北海道江差町と沖縄県南城市の子どもが、オンラインで民話バトルするといったイベントも可能だと思いますね。

まとめ

青い海(ブルーシー)と緑の大地(グリーンランド)を活動の場とし、海洋性レクリエーションをはじめとする自然体験活動などを通じて、次代を担う青少年の健全育成と日本国民の“心とからだの健康づくり”を推進する公益財団法人ブルーシーアンドグリーンランド財団の理事も務めている中江さん。多彩な視点から「海ノ民話アニメーション」が目指すべきものを教えてくれた。子どもたちの知的好奇心を刺激しながら、海への興味・関心を楽しみながら育んでいくことを今後も推進していきたい。

2023年2月22日公開、2024年3月19日再掲載
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