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「桃太郎博士」が語る、
アニメーションで継承する「海ノ民話」の新たな可能性
「図書館を使った調べる学習コンクール」文部科学大臣賞受賞
公益財団 法人図書館振興財団が主催する「図書館を使った調べる学習コンクール」は、図書館利用の促進と調べる学習の普及を目的として、小学1年生以上を対象に、公共図書館や学校図書館を使って調べてまとめた作品を募集するコンクールだ。
倉持よつばさんは、2018年(第22回)の同コンクール「調べる学習部門 小学生の部(高学年)」にて、『桃太郎は盗人なのか?―「桃太郎」から考える鬼の正体―』と題したレポートで文部科学大臣賞を受賞した。ある本との出会いをきっかけに知った、誰もが知る昔話『桃太郎』のもう一つの姿、「桃太郎盗人説」。その真偽を確かめるべく、全国の『桃太郎』を読み比べたり、「鬼」の正体を探るために各地を訪ね歩くなどして、自分なりの答えを導き出した。
それでも『桃太郎』への興味は尽きることなく、2021年(第25回)の同コンクールでは『嫁取り噺「桃太郎」~全国の伝承昔話「桃太郎」を読み比べる~』で、今度は「調べる学習部門 中学生の部」にて再び文部科学大臣賞に輝いた。「桃太郎博士ちゃん」としてバラエティ番組に出演するなど、その博識ぶりと「桃太郎」愛で知られる彼女が、「海ノ民話アニメーション上映会2022」にゲストとして登壇した。「語り継がれる民話のチカラ」と題したトークセッションで、お茶の水女子大学サイエンス&エデュケーション研究所 特任講師の里浩彰さんと「海ノ民話アニメーション」と教育のクロスオーバーの可能性について語り合った。そんな彼女に、あらためて「海ノ民話アニメーション」に対する印象などを聞いた。
幼少時から親しんだ読書をきっかけに『桃太郎』を探求
民話って、だいたい絵本や書籍を通じて触れるものですが、小さい子には読みづらいかなという部分があったり、少し抵抗を感じる方もいると思います。でも、アニメ化することで映像や音声になって、文字では表せなかったことを表現できて、とても見やすくていいなあと思いました。
『サザエと弁天岩の女神様』や『甚助さんの板子』といった、海が荒れることで水難事故が起こることを教えてくれる作品が印象に残りました。アニメで見ることによって、危機意識が高まったり、小さい子が水難事故へ意識を向けたりするきっかけになるんじゃないかな、と思いました。
最初に調べたのは、小学校5年生の時です。小学4年生の時に入賞した「図書館を使った調べる学習コンクール」でいただいた副賞に『空からのぞいた桃太郎』という本がありました。その本には「鬼だから殺してもいい?」「あなたはどう思いますか?」と書かれた帯が付いていて、それまで私が知っていた桃太郎のお話とは違っていたんです。さらに解説には、福澤諭吉や芥川龍之介が「桃太郎は悪者だ」と非難したと書いてあって「桃太郎が盗人? これはいったいどういうことなんだろう」と思ったのと同時に「鬼はみんな悪者だと思っていたけれど、本当にそうなんだろうか?」という疑問も出てきました。そこから調べ始めて、今に至っているという感じです。
小さい頃から、親にたくさん絵本の読み聞かせをしてもらっていました。あと、私が住んでいる千葉県袖ケ浦市が、すごく読書の推進に力を入れているんです。私が通っていた小中学校の図書室の蔵書数がすごく多くて設備もかなり良いので、そこや地域の図書館で本を借りて読んだりということは小さい頃からしていましたね。
もし、民話を題材にした授業をするとしても、内容を聞くだけだと退屈だなって思う小学生・中学生がいると思うんです。でも、アニメの映像を流すことによって飽きる可能性も少なくなるだろうし、映像があるからこそ民話の内容が分かりやすくなるし、みんなの意欲も高まったりすると思います。たとえば歴史の授業で、自分たちの地域に伝わる民話と映像を結び付けて一緒に勉強できたら、すごくいいんじゃないかなと思います。
まとめ
取材時、中学生にしてすでに2冊の自著を持っていた倉持さん。『桃太郎』という普遍的な物語の側面を知ったことをきっかけに、好奇心の赴くままに探究した彼女の研究によって、私たちも一般に知られる『桃太郎』の新たな側面を知るきっかけを与えてもらった。現代を生きる若い世代だからこそ抱くことが可能な疑問や視点から生まれる斬新な切り口には、昔から脈々と語り継がれてきた「海ノ民話」を次世代に伝えていくための有効な手段のヒントがあるのかもしれない。