日本財団海と日本海のまちプロジェクト

今こそ伝えたい海の民話アニメーション

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黒を基調とした美しい映像で描かれた「海の姫宮の旅」が完成!

作品公開
2023年3月29日

2018年よりはじまった「海ノ民話のまちプロジェクト」。これは日本財団が推進する海と日本プロジェクトの一環として、日本中に残された民話を発掘し、アニメーションをベースとした親しみやすい表現で「海との関わり」や「地域の誇り」を子供たちへ伝え語り継ぐことを目的としたものです。プロジェクト発足5年目となる2022年も、日本各地から選ばれた海ノ民話15作品を映像化。そのうちのひとつとして、山口県岩国市に伝わる民話をもとにした「海の姫宮の旅」が完成しました。

このお話の主人公は、海の安全を見守る神様として知られている、市杵島姫(イチキシマヒメ)。日本が栄えるに従い、海を行き交う舟がたくさん増える中、互いにぶつかったり、浅瀬に乗り上げてしまう舟も現れるようになりました。なかでも、都へと向かう瀬戸内海は、渦潮などの危険な場所がある航海の難所として知られ、悲しいことにここで事故に遭い、命を落とす者が後を絶ちませんでした。
このことに心を痛めたイチキシマヒメは、瀬戸内海を見渡す島に立派なお宮を築き、舟の安全を祈ることに。そして、自ら舟に乗り、宮を建てるのにふさわしい場所を求めて宗像の辺津宮から旅立ちました。

関門海峡を通り、下関を越え、周防灘へ。いよいよ瀬戸内海に入った舟の旅は時に厳しく、風の強い時は、どんなに腕のいい船頭が舵をきっても、舟は大海原を迷いそうになったり、波の高い時には神様が乗る丈夫な舟も泡のように砕けてしまいそうになります。イチキシマヒメは、船族の大変さを知り、船乗りたちの苦労を身に染みて感じたのでした。
幾つもの島の間を進み、大畠瀬戸を過ぎた頃、キラキラ光る白い砂浜と青々と茂る松林がある、麻里布の浦が見えました。その風景に心惹かれたイチキシマヒメは、ここで帆を下ろし、旅の疲れを癒すことにしました。
ふと、浜の向こうでサワラ漁をしてきた舟が見えたので、イチキシマヒメは、その者たちを呼び寄せ、「ここに人の住む家は有るか?」とたずねたところ、「有る」という答えが帰ってきたことから、この地には「有家(あらけ)」という名がつけられました。そしてイチキシマヒメが着替えのために薄絹の衣を松の枝に掛けたので、この松の木を「衣掛松」と呼ぶようになり、この地には「装束」という名がつけられました。そして、イチキシマヒメが鏡を建てた岩は「鏡岩」、紅をさした岩は「紅岩」となりました。

イチキシマヒメは、美しいこの浜をとても気に入りましたが、いつまでもとどまっていることはできません。「舟の安全を見守るには、瀬戸内海に浮かぶ島からの方が良いでしょう」と、辺りを見渡したイチキシマヒメは、、虹色に輝く瑞雲が安芸の宮島の弥山にたなびいているのを見つけます。それをめでたい兆しととらえたイチキシマヒメは、そこに宮を構え、交易を守り、舟の安全を見守ることに決めたのでした。やがて、これが今の厳島神社となったのです。

このアニメではイチキシマヒメが、福岡県宗像市の宗像大社から、広島県宮島の厳島神社までの旅の中で、岩国市に立ち寄った際のエピソードを切り取ったお話です。約5分という短い作品ではありますが、宗像市から宮島までという、まさにイチキシマヒメの旅をなぞるような超壮大なロケハンのもと、丁寧に制作されました。本編にも登場する宗像大社や厳島神社は、古来より多くの船が行き交う場所にあったこともあり、イチキシマヒメは、航海安全と商人の商売の守護神として、昔も今も、多くの信仰を集めています。

宗像大社辺津宮
厳島神社

そんなイチキシマヒメの道行きを蒔絵のようなビジュアルで表現したのが、アニメーターのまなみさんです。キャラクターデザイン、絵コンテ、演出、作画、美術、背景、色彩設計と、アニメーション制作において重要なポジションの多くを担当されたまなみさんは、「女神様の旅」という、神秘的な物語を美しい黒で引き立たせました。

1月27日(金)に岩国市役所で行われたアニメ完成報告会で、福田良彦市長は「この度のアニメでは、地名や史跡などの伝承を海の安全を願う姫宮を通してわかりやすく描いていると感じました。こうした歴史や文化、美しい海や資源を未来に引き継ぐことの大切さを市民や岩国を訪れる人々へ伝えていくことの重要性を再認識しました。また、本市のPR媒体の一つとして親しみやすいアニメーションを活用することも効果的と考えています」と述べました。

地名の由来や、衣掛松といった名所など、岩国市の地理や歴史も学ぶことができる本作。心優しいイチキシマヒメの旅路を通して、これからも海への学びを深めて行きたいですね。

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